前回は、妊娠中の薬についてご紹介しましたが、今回は授乳中の薬についてまとめたい
と思います。妊娠中は、定期的に病院に通われていることもあり、受診先の先生にご相談
されることが多いと思いますが、出産後は赤ちゃんのお世話があることもあり、なかなか
お母さん自身の体調のために、病院へ通うことが難しくなり、薬局などで市販薬をお求め
になることが多いと思います。特にご相談の多いのが、風邪薬や頭痛薬、便秘薬などです。
母乳にはとてもたくさんのメリットがあり、どのお母さんも、できれば赤ちゃんを母乳
で育てたいと望むことと思いますが、薬を服用しなければならないときは、その影響を考
慮しなければなりません。本来は、母親が服用した薬剤のうち、どの程度が母乳中へ移行
し、それを飲んだ赤ちゃんにどの程度吸収され、どの程度影響があるのかを調べて、授乳
の可否を判定しなければいけないはずです。しかし残念なことに、薬の認可の際、母乳中
への薬剤移行があるとなると、安全性優先の観点から、その医薬品の添付文書には「授乳
を中止する(避ける)」と記載されてしまいます。そのため、大半の医薬品が授乳を中止
するということになっています。ところが最近、海外では母乳育児の重要性が指摘されて
おり、同じ薬でも日本とは対応の異なる薬剤が増えてきました。
そこで、授乳中の薬の影響について、最近の医療界・薬学界での見解や、本当に授乳を
避けるべき薬剤について、ご紹介したいと思います。
■ 妊娠中と、出産後の赤ちゃんへの影響度比較
母乳を飲んでいる赤ちゃんに、お母さんの飲んだ薬剤の影響を考えるとき、妊娠中の胎
内の赤ちゃん(胎児)への影響と比較するとわかりやすくなります。妊娠中は、胎児はお
母さんと血流が同じになりますので、胎児はお母さんとほぼ同濃度の薬物を摂取している
ことになります。
これに対し、お母さんの飲んだ薬剤のうち乳汁中へ移行する量は、母体の血中濃度より
低くなる場合が殆どです。このため、赤ちゃんが実際に摂取する薬剤量は、赤ちゃん自身
の治療量(影響量)に比べると低くなるため、妊娠中より格段に安全であることがわかる
と思います。
■ 授乳中の薬剤服用時の注意点
妊娠中より安全とは言っても、やはり赤ちゃんへのリスクは最小にしたいもの。
授乳中の薬剤服用時は、以下のような点に気をつけたいものです。
1.不要な投薬を避ける。
常用しているサプリメントなども、授乳期間はお休みしたほうが安心。
2.同じような薬効の薬であれば、新薬よりも古くから使われていて、悪影響が報告さ
れていない薬剤を選択する。
3.赤ちゃんの月齢を考慮して薬の種類や量を決める。
未熟児や新生児では、肝臓・腎臓などの代謝・排泄機能が未熟であるため、その分
リスクが高まります。
4.同じような薬効の薬の中では、以下のようなものを選ぶほうが安全。
・できるだけ半減期の短いもの(代謝が早い)
・タンパク結合性の高いもの(タンパク結合性が高いほど乳汁に移行しにくい)
・経口以外のもの(点眼・点鼻・点耳・軟膏・湿布・坐薬など外用薬は患部より吸
収され、乳汁中への移行は殆どなし)
・高分子のもの(分子量が大きいほど乳汁に移行しにくい)
5.投与した薬剤の血中濃度を考慮する。
母乳は乳房中に蓄積されるのではなく、大半が授乳時に作られます。
薬剤の影響を最小にするために、投薬を授乳直後にしたり、経口薬の場合は投薬後
1〜3時間の血中濃度ピーク時の授乳を避けるようにする。
■ 授乳婦への使用に注意が必要な薬剤 (参照:調剤と情報 2006.10)
□ 授乳婦禁忌の薬剤(通常、授乳婦には投与されない薬剤)
・抗がん剤
抗がん剤には、細胞毒性があり、赤ちゃんの細胞代謝を障害する可能性があるた
め非常に危険です。母親が服用している場合は、授乳を禁止します。
・乱用薬物
(アンフェタミン、コカイン、ヘロイン、マリファナ、フェンシクリジンなど)
・放射性医薬品
放射性医薬品を用いた核医学画像診断などを行った場合、その薬剤の影響が認め
られなくなるまで、授乳を禁止します。
□ これまでに、授乳または乳児に悪影響が報告されている薬剤
※記載は、それぞれ成分名(商品名)、主な薬効、報告されている影響 の順。
・アスピリン(アスピリン末、サリチゾン、バファリン330mg錠 など)
解熱・鎮痛・消炎薬
→代謝性アシドーシス(1例)
(アシドーシスとは動脈血のpHが7.35以下になった状態で、体内に酸が異常に
蓄積されたか、体内から異常に塩基が消失されて起こる病的な状態。)
注)
アスピリンは通常、15歳未満の小児には使用しないことになっています。
インフルエンザ、水疱瘡などのウイルス疾患時に使用すると、ライ症候群を発する
恐れがあるため、これらのウイルス疾患との判別が難しい解熱・鎮痛・消炎目的で
の治療には、代替薬としてアセトアミノフェンを使用することになっています。
授乳婦への代替薬としては、アセトアミノフェンやイブプロフェンが推奨されてい
ます。(ただし、どちらも母乳に移行することがわかっているので、最小限)
・アセブトロール(アセタノール、セクトラール など)
β遮断薬(本態性高血圧症、狭心症、頻脈性不整脈)
→低血圧、徐脈、多呼吸
・アテノロール(テノーミンなど)
β遮断薬(本態性高血圧症、狭心症、頻脈性不整脈)
→チアノーゼ、徐脈など
β遮断薬の授乳婦への代替薬としては、プロプラノロール(インデラル)やラベタ
ロール(トランデート)が推奨されています。(ただしどちらも母乳に移行します)
・エルゴタミン(カフェルゴット、クリアミンA、クリアミンS など)
片頭痛治療薬
→下痢、嘔吐、けいれんなど。長期使用で乳汁分泌抑制。
代替薬としては、スマトリプタン(イミグラン)の使用が推奨されていますが、
添付文書によると、投与語12時間は授乳しないこと、となっています。
・クレマスチン(タベジール、キノトミン、テルギンG、ピロラール など)
抗ヒスタミン薬
→嗜眠状態、易刺激性、哺乳障害、頸部硬直など(1例)
注)
この報告は1例のみですが、市販薬の風邪薬などにもよく含まれている成分のため
要注意。
授乳婦への代替薬としては、ロラタジン(クラリチンなど)が推奨されています。
(ただし母乳に移行します)
・スルファサラジン(サラゾピリン、アザルフィジンEN など)
潰瘍性大腸炎、限局性腸炎、非特異性大腸炎、関節リウマチ
→出血性下痢(1例)
・フェノバルビタール(フェノバール、ルピアール、ワコビタール など)
抗てんかん薬
→鎮静、離脱時のけいれん、メトヘモグロビン血症
・プリミドン(プリミドン)
抗てんかん薬
→鎮静、哺乳障害
・ブロモクリプチン(パーロデル、アップノール など)
抗パーキンソン病薬
→授乳婦の乳汁分泌抑制
・メサラジン(ペンタサなど)
潰瘍性大腸炎、クローン病
→下痢(1例)
・リチウム(リーマスなど)
躁病治療薬
→乳児の血中濃度が治療濃度の3分の1〜2分の1に到達。
これまで悪影響の報告はないが、血中移行が高値のため、乳児の血中濃度測定
が必要。
□ 乳児に対する影響は不明だが、悪影響が懸念される薬剤
精神神経系に作用する薬剤は、母乳中への移行量はあまり多くないものの、薬剤自体
や活性代謝物(代謝されて薬効を発揮するもの)の半減期が長く、乳児の血中に検出
されることがあります。安定した状態で母乳育児に望むことが重要という観点からも、
精神神経系の治療中の母親は、授乳を控えるほうがよいという意見が多いようです。
・抗不安薬
アルプラゾラム、クアゼパム、ジアゼパム、プルトプラゼパム、ペルフェナジン、
ミダゾラム、ロラゼパム など
・抗うつ薬
アミトリプチリン、アモキサピン、イミプラミン、クロミプラミン、トラゾドン、
ノルトリプチリン、パロキセチン、フルボキサミン など
・抗精神病薬
クロルプロマジン、トリフロペラジン、ハロペリロール
・その他
アミオダロン(アンカロンなど)
生命に危険のある再発性不整脈用薬
→甲状腺機能低下の可能性
クロファジミン(ランプレンなど)
抗ハンセン病薬
→母乳中へ高率に移行、乳児の皮膚色素沈着 の可能性
クロラムフェニコール(クロロマイセチンなど)
抗生物質
→骨髄抑制の可能性
注)抗生物質は、乳汁移行のあるものが多いが、セフェム系は殆ど移行しない
ため、セフェム系の抗生物質などへの変更が推奨される。
他、乳汁移行はあるが、ペニシリン系やマクロライド系も推奨される。
メトクロプラミド(エリーテン、テルペラン、プリンペランなど)
消化器運動促進薬
メトロニダゾール(フラジールなど)
抗トリコモナス症薬
→in vitro(試験管内実験)にて突然変異原 出現
この他、内服性の下剤は、乳児に下痢が起きる危険性が高いため、夜間に授乳をしている
期間中は、服用を避けるべきです。どうしても便秘が続いて辛い場合は、浣腸剤が推奨さ
れます。
今回は、授乳期に禁忌とされる薬剤を列挙させていただきましたが、投与の期間や量、ま
た赤ちゃんの発育具合などによっても、影響が異なってきますし、やはり授乳を避けるべ
き薬剤はたくさんあります。
授乳中に医療機関を受診される場合は、必ず授乳中であることをお伝えください。また、
いくら母乳が大切とは言っても、お母さんが元気であることが最も大切です!体調を崩さ
れたときは無理をなさらず、ミルクを併用したりしながら、早く元気になってくださいね。